デザイナーにはとても馴染みの多いフォント【新ゴ】【小塚明朝・ゴシック】を作り、僕も大好きな明朝体【リュウミン】の監修等にも関わって来たタイプデザイナーの小塚昌彦さんの本を紹介します。
活版印刷の時代から写植。そしてデジタルでのフォント制作まで関わった小塚昌彦さんの歴史は、そのまま日本の活字の歴史と言っても大げさではないかもしれません。
この本は前述の通り、50年以上書体作りに関わって来た、小塚昌彦さんの自伝的な内容となってます。
その内容はとても濃く、とても夢中になって一気に読み進める事が出来ました。
フォントデザイナーや種字彫りの職人達が、丹精を込めて作って来た書体があるからこそ、今の書体達があります。
そして、その結果として、我々デザイナーはとても美しいフォントを使う事が出来ます。
この本を読む事によって、デザイナーとしてのフォントへの気持ちはきっと変わると思います。
とても面白かったのが、活版印刷〜写植へと、フォントの制作過程が変わって行く話、活字職人達の勘違いによって産み出されるゴシック体があったそうです。
詳細な内容は書きませんが、勘違いによって産み出されたフォントが、デザイナー達に「インパクトがある」として受け入れられていったり。
そんな微笑ましいエピソードも、長い間フォントに携わった小塚昌彦さんだからこそ知っている、面白い話の1つでした。
欧文書体は、最小の“OpenType Std”だと243文字。“OpenType W2G”だと890文字もあれば、1つの書体が出来ます。
一方、日本語書体は最小の規格でも8,000字余り。多いものだと20,000字以上に登ります。
欧文書体を作るのが簡単だとは言いませんが、日本語書体を作る大変さは、文字数を見ただけでもわかります。
しかも、日本語は縦組、横組があり、漢字、平仮名、片仮名、欧文を組み合わせて使用されるという、複雑な事もあり、1つの書体として完成させるのは非常に難しいのだと思います。
僕も文字組をしていて「うーん」となる事はよくあるのですが、日本語を横組にした際に流れが悪かったりすることはありませんか?
小塚昌彦さん曰く、日本語書体の横書きにはまだ課題があると、後に続く書体デザイナー達へのメッセージとして綴られていました。
書体の未来の事を想い、この本を書かれたのだなー。と、どこまでも書体の事を思う小塚昌彦さんに感動でした。多分、後継者達へのメッセージを含めて、この本を書かれたのではないでしょうか。
【新ゴ】【小塚明朝・ゴシック】【リュウミン】は、とても使いやすく、今までも沢山使わせて頂いている好きな書体でした。
そして、この本を読んだ事によって更に愛情が増しました。
書体のバックグラウンドを知る事により「どんな想いで作ったのか?」を知る事が出来ます。
そして、僕らデザイナーは「こういう想いがあるフォントをここで使う」という理由が生まれます。
そうする事により、タイポグラフィーは更に美しくなり、人の気持ちに届くデザインに一歩近づける気がします。
フォントというのは、買うと本当にビックリするくらい高いですよね。
でも、フォントを作る沢山の苦労を知り、美しいフォントがある有り難さを知ると、決して高くないとわかります。
そもそも、自分が一人で書体を作る事を考えたら、その人件費だけでも莫大なものになります。
繰り返しになりますが、フォントデザイナーさんがいるから、僕らデザイナーは美しい書体が使用できます。
感謝し、そのフォントを汚さないように気を引き締めたい!と、この本を読んで強く思いました。
関連するNewsの一覧です。
合わせてお読みください。