
たった今、このコラムを書くにあたり「何か音楽を聴きたい」と、Apple Musicのリストを選んでいました。元々自分は音楽が好きで、ほぼどんなジャンルでも聴くため、なかなか膨大なリストです。上から順々に目で追っていくと、ふと見知らぬ「W」という文字が目に飛び込んできました。
「え?W??? Xじゃなくて?」と思って見てみると、元モーニング娘。の加護さんと、辻さんの曲でした。しかもこれ、「ダブリュー」と読むのではなく「ダブルユー」って読むんですよ。知ってました?「オールジャンル聴く自分ではありますが、Wは聞いたことないなぁ。。」と思いつつ、聴いてみました。お二人らしいポップで元気な曲で、あっという間に時間が経つのを感じました。「は!コラムを書かないと!」
このように、一昔前とは音楽の聴き方が変わり、手軽にストリーミングで聴く便利な時代となりました。その一方で、アルバムやシングルなどの音源を「自分だけの大切な宝物」と接してきた頃とは、考えを変える必要があります。知らぬ間に自分のリスト内に現れる「W」を受け入れ、運営側の都合で勝手にアーティスト名がアルファベットからカタカナ表記に変えられることに対し、無感情でいられることが大事な条件です。
ふと思い出すのは、お金のなかった若い頃に、生活を切り詰めて買ったアルバムを大事に聴く時の気持ちです。今はそういう気持ちでアルバムを聴くことはなくなりました。それは自分が若くないからなのか?それとも、やり方が変わったからなのか?はたまた、そういう気持ちを味わえる他のことが、どこかにあるのだろうか?と考え出すと、懐古主義のようになりがちですが、あのかけがえのない、大切なものを持ち帰る気持ちのような何かを、育める社会であり続けると良いなぁ。と思いました。それは、言い換えると「余白」ということなのかもしれません。便利なことはもちろん歓迎なのですが、心には余白が大事なのかもしれませんね。
ところで、全く話は変わりますが、今朝(10/31)のニュースで「阿部寛さんのウェブサイトが、“https”に対応した!」という見出しのニュースがありました。阿部寛さんのウェブサイトは、我々ウェブデザイナーの間では伝説的な存在で、簡潔かつシンプルな組み方で、およそ30年間情報を発信し続けているウェブサイトです。“https”というのは、つまりは“暗号化通信”のことで、通信内容が第三者に盗み見られたり改ざんされたりするのを防ぐ仕組みです。今や導入するのは当然なのですが、それが導入されただけで話題になるのは、阿部寛さんの偉大さと、愛着を持って育て続けたウェブサイトだからこそです。
移り変わりの早いウェブの世界において、今回のことは新たな価値基準であり、新しい形の歴史の残し方なんじゃないか。と思いました。さらになんと、このウェブサイトの作者はファンの方で、後に事務所に公式として認められ、以降続いている。という話も含めてすごすぎます。そのファンの方も嬉しいでしょうし、それを認めるご本人も事務所もとってもいいと思いました。これは、ウェブサイトで人柄を十分に表現する。ということを30年ほどかけてやり抜いた稀有な例ですし、デザイナーが目指すべきところです。この話も上に続き、ちょっとした余白が生み出したような話なのかもしれません。とても心がほっこりします。
ちなみに、阿部寛さんのウェブサイトはこちらです。
フォント紹介と言うと偉そうなんですが、自分の勉強の為に毎月書いています。意見も個人的な意見となりますが、良かったら読んでみて下さい。
さて、今回紹介する“Gotham”は、アメリカのタイプデザイナーによって2000年にリリースされた、比較的新しいフォントです。ニューヨークの街中にある建物の看板や古いサインに使われている文字からインスピレーションを受けて、デザインされたそうです。ちなみに、オバマ大統領の2008年大統領選キャンペーンのポスター等に使われたり、さまざまなロゴに使用されたりしている、売れっ子フォントです。
見てみましょう。

幾何学的ないわゆるジオメトリック・サンセリフ書体で、特徴はやや平体がかっていて、xハイト(小文字のxの高さ)が高めとなっており、モダンでありながらもやや可愛いフォルムとなっています。十分なウェイト構成があり、イタリック(斜体)も揃っており、これ一つでさまざまな使用用途を満たせます。また、このフォントはバリエーションも豊富なので、一気に紹介したいと思います。
ちなみに、文字の幅の違いを見ていただきたいので、全てノーマルと同じ級数にしてあります。



一気に三つのバリエーションを紹介しましたが、ここまでは長体(文字を縦に伸ばした形)のものです。ノーマルが平体気味だと思っていたら、しっかりと長体が用意されていた。ということで、紙面等、スペースが決まっている場所で、文章量を確保したい時にも大変重宝します。

こちらは丸文字です。こちらもノーマルが可愛いと思っていたら、さらなる“可愛い”を用意してくださいました。ウェイトは若干少なめです。
せっかく長体が用意されていますので、少し長めの文章でその効果を見てみましょう。

上からノーマル、Narrow、XNarrow、Condensedで、ウェイトは全てBookです。ノーマルとCondensedで比較すると、スペースがだいぶ削れておりますが、ちょっとこのままだと読みにくいので、少し調整は必要だと思いました。長体で組むとややきつい印象になってしまうのは仕方ないとして、普通の書体にアプリで長体をかけるより、はるかに良いのでありがたいです。ノーマルはすっきりとしていて、クリーンな印象があり好印象です。
最後に、大きめの文字をご覧いただきます。

かっこいい!ロゴのベースに使われる。というのも良くわかる、堂々とした佇まいがありますが、威張りすぎない品の良さもあり好印象です。平体気味なことが、堂々とした佇まいに寄与しているものと思われます。
GOTHAMはいかがだったでしょうか。個人的には、オバマ大統領のポスターで、話題になった時のイメージだけで止まってしまっていましたので、大変勉強になりました。字形、ウェイトの数、バリエーション数、どれをとっても気が利いていますし、数あるジオメトリック・サンセリフの中で埋没せず、“機会があったら使いたいリスト”に、確実に入る一軍フォントだと思いました。
さて、いよいよ2025年も残り2ヶ月となりました。もうそろそろ秋刀魚の時期が終わり、餅の時期に突入ですね(美味しい)。これから年末にかけて、忙しい時期が続くものと思いますが、心に余白を持った素敵な大人になれますよう、お祈り申し上げます(誰に)。俺に。
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