季節は階(きざはし)のように

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2021.10.01

2021年10月

八月から九月になった途端、季節は一気に夏から秋へ一段上がりました。まさにきざはしのように。まるで、地球がカレンダーを理解しているかの如き変化でしたが、体調を崩されたりしていませんか?

気温の変化と共にジレを着てみたり、カーディガンを着てみたり、ジャケットを着たりと、少しずつ服装のバリエーションが増えてくるのは、この時期の楽しみ方の一つです。と、ちょっと小粋なエッセイ風を気取ってみましたが、本当にいつかお洒落をして、マスクなしで街を出歩けるような日々が戻ってくると良いなーなんて思いつつも、もういつまでもそんなことを言っていても仕方ないので、マスクでさえもカッコ良くキメられる工夫こそ、今に求められることなのかもしれません。

そう、私たちはいつ迄も現状を嘆いている訳にはいかないのです。これを機に進化しなくてはなりません。働き方も変わりますし、遊び方も変わります。
「人類は変革期を迎えているんだなぁ」と思わずにはいられません。そう考えるとワクワクしますね。戻ってくることもあるでしょうけど、戻らなくても良いことも沢山あるような気がします。つまらない伝統は、過去のものと捨てちまいましょう。(投げやりな感じがしますが、そんな事はなくてポジティブです)

今月のFONT紹介は“きざはし 金陵”

フォント紹介と言うと偉そうなんですが、自分の勉強の為に毎月書かせて頂いています。意見も個人的な意見となりますが、良かったら読んでみて下さい。

先月に引き続き、日本語書体を紹介します。その名は“きざはし 金陵”。「南斉書(西暦502〜519)」という中国の歴史書を元に復刻した「金陵」と、明治26年に東京築地活版製造所で印刷された「長崎地名考(明治26年)」を元に復刻した書体「きざはし」をマッチングしたMORISAWAから出されているフォントです。

「南斉書」を見てみたら、すごくかっこいい文字で読みやすく、「復刻したい」と思う気持ちがよく分かる書体でした。また、仮名書体であるきざはしの元となる「長崎地名孝」も、読みやすい文字で、昔の文字はとにかく読みにくいという自分の思い込みが見事に覆されました。どちらもかっこいいので、是非見てみてください。

それでは見てみましょう。

きざはし 金陵 M

きざはし 金陵 B

現代的な明朝体とは明らかに違う、リズムのようなものを感じますね。かっこいい。漢字の“世”とか“誰”等、左下が大胆に下まで突き抜けてるような表現が特徴的です。かなは筆の動きを感じさせ、適度にばらつきリズムを生み出します。
そして、こういうフォントは、もちろん縦書きで威力を発揮します。

きざはし 金陵 縦書き

あぁかっこいい。これくらいの文字数だとそこまで差が出ませんが、長文になると縦書きの方がすらすらと読めるようになります。日本の文字は元々、縦書きの流れに最適なように作られていて、伝統的な形をしたこのフォントは縦書きに使うのが一番適していると思います。

一方、こういう伝統的な文字を横組みで組むと、視点が上下に行き来するので、読み進める上で少し突っかかる部分があることがデメリットになったりしますが、それを逆手に利用してじっくりと読ませる。という方法があります。ただ、あまり長い文章にしない事が重要です。読むのに疲れてしまうから。長文ではやはり縦書きが良さそうですね。

それと、気になるのが欧文との混植ですね。

きざはし 金陵 混植

欧文にはGaramond(ギャラモン、ガラモン、ガラモンド)が使用されています。明朝体に使用される事が多いのは、なんとなく作りが似て見えるからです。ただ、明朝体は毛筆がベースですが、Garamondのようなローマン体はカリグラフィー(平筆)がベースになっているので、書き方が全然違うという事も、知っているとちょっと面白いですね。

漢字、平仮名、カタカナ、欧文が混じる日本の文章は、作るのがとても難しいのではないかと想像しますが、そんな困難にもめげずに、というかその雰囲気の違いを活かして、読みやすくしてしまう工夫が積み重ねられ、現在の日本語フォントに反映されています。そもそも、漢字のルーツは中国ですもんね。

“きざはし 金陵”が、中国と日本の書物から組み合わされて使われていると知った時、一瞬びっくりしましたが、日本語の文字というのは、そもそも色々なものを借りたり工夫したりして出来ているんだ。という流れそのものを、この“きざはし 金陵”が体現しているような気がしました。そう思うと、逞しいフォントですね。

オフィシャルな説明では「“南斉書”と“長崎地名考”を組み合わせた。と書かれていますが、それに“Garamond”を足すのを忘れてはいけませんね。また一段きざはしを上がりました。

さてさて、今回はこの辺で終わりにします。
コロナ禍さえも利用して、今後生きやすいようにアップデートをする力が、逞しいフォント“きざはし 金陵”を作り上げた日本人には、あるのではないか。と、フォント紹介をしつつ思いました。
今月からは緊急事態宣言が明ける予定となっておりますが、以前のような生活が出来るようになる事はまだまだ先のような気がしています。ただ、以前を取り戻すのではなく、以前よりも良い生き方。というのを模索するベストなタイミングです。日本人らしい逞しさと工夫があれば、きざはしを一段上がることが出来るのではないでしょうか。いや、上がるのです!(テンション変かも)

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