ミッフィーの産みの親として有名なディック・ブルーナさんは、絵本作家と思われがちですが(僕もそう思っていました)、元々はグラフィックデザイナーでした。
10代の頃には画家を目指していたそうで、そこでデッサンの基礎を学び、やがてデザインと出会うと、ポスター制作や、本の表紙デザイン等を手掛けるようになったそうです。
ディック・ブルーナさんのデザインの特徴はなんと言っても色づかいの美しさです。
そしてシンプルでパワフル。
なによりも、デザインを楽しみ、愛していた事が伝わって来ます。
「いっさい文字がないものこそが、究極のポスターです」
ディック・ブルーナさんの言葉です。
その言葉が表すように、ディック・ブルーナさんのデザインはとてもシンプルです。
だからこそパワフル。
シンプルなデザインを目指すデザイナーは数多くいますが、それを行う事はとても難しい事です。
極限まで余計な物を削ぎ落としながら、大事な「メッセージ」まで削ぎ落とさないギリギリの所を見極めるバランス感覚が必要だからです。
一般的に依頼者は、出来る限りのメッセージを顧客に伝えたい。と考えます。当然ですが。
そして、情報を詰め込み過ぎた結果“見たくならないデザイン”になってしまう事は、とても多く見られます。
本当はもっとシンプルにすべきだ。という事は殆どのデザイナーが知っています。
ただ、それを行うには、クライアントさんとの話し合いの段階から、情報をまとめ、方向性を1つにまとめあげ、説得する能力が要求されます。
ディック・ブルーナさんの凄さは、きっとそういう辛抱強い話し合いをした結果、産まれたんだろうな。と、想像しています。
※勿論、時代背景や印刷技術といった物も背景にあると思いますが。
本当にシンプルな線と、僅かな色だけで描かれたミッフィー。
描いて見るとわかるのですが、とても難しいです。
そして、例えばミッフィーの絵をグラフィックソフトのパスでトレースしてみても、この雰囲気は出ません。
この線の微妙な震えや、強弱は、人間の手から産み出されたものだからです。
ウェブでは特に、最初から最後までモニター上でデザインする事が多いと思います。
だけど、どうしてもデザインに温かみが出ない。とか、いいんだけどどこか淡白だな。と感じる時、モニターから出てみる事で解決する事があります。
例えば、作った線を一度プリントアウトし、それをスキャナーで取り込んでみる。
すると、紙の繊維のにじみや、掠れ、微妙な濃淡の違い等、本当に微妙な差ですが、デザインに温度感が出たりします。
この本を見て一番に思った事は、「デザインに対する愛情」の大切さです。
“あと一手間”というのは、淡々とこなして行くと省略しがちです。
スケジュールに追われていると、つい省略しがちな“一手間”を忘れないようにしたい。そう思わせてくれる一冊でした。
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